運動の三法則
位置、速度、加速度
ここでは、運動の状態を記述するために必要な位置、速度、加速度を定義する。大きさを無視できる物体(質点)の位置を三次元直交座標で表すときベクトルを用いて次のように表す。
$\boldsymbol{r}(t)=(x(t), y(t), z(t))\tag{1}$
ここで、このベクトルは始点を原点、終点を物体の座標とする位置ベクトルである。
次に速度ベクトルは位置ベクトル$ \ \boldsymbol{r}(t) \ $の時間微分として定義され、以下が成り立つ。
$\boldsymbol{v}(t)=\dot{\boldsymbol{r}}(t)\tag{2}$
前ページで述べたように$ \ \boldsymbol{r}(t)=x(t)\boldsymbol{e_x}+y(t)\boldsymbol{e_y}+z(t)\boldsymbol{e_z} \ $と書けるから、微分の線形性により(つまり$\frac{d}{dx}(af(x)+bg(x))=af'(x)+bg'(x)$)上式を計算すると以下が成り立つ。
\begin{eqnarray}
\boldsymbol{v}(t)&=&(v_x(t), v_y(t), v_z(t))\\
&=&(\dot{x}(t), \dot{y}(t), \dot{z}(t))\tag{3}
\end{eqnarray}
すなわち、速度ベクトルの各成分は位置ベクトルの各成分の時間微分にそれぞれなっていることがわかる。また、このベクトルの幾何的意味は物体の軌道の接線方向を指すことにある。
最後に加速度ベクトルは速度ベクトル$ \ \boldsymbol{v}(t) \ $時間微分として定義され、以下が成り立つ。
$\boldsymbol{a}(t)=\dot{\boldsymbol{v}}(t)=\ddot{\boldsymbol{r}}(t)\tag{4}$
先程と同様に$ \ \boldsymbol{v}(t)=v_x(t)\boldsymbol{e_x}+v_y(t)\boldsymbol{e_y}+v_z(t)\boldsymbol{e_z} \ $と書けるから、微分の線形性により上式を計算すると以下が成り立つ。
\begin{eqnarray}
\boldsymbol{a}(t)&=&(a_x(t), a_y(t), a_z(t))\\
&=&(\dot{v_x}(t), \dot{v_y}(t), \dot{v_z}(t))\\
&=&(\ddot{x}(t), \ddot{y}(t), \ddot{z}(t))\tag{5}
\end{eqnarray}
Newtonの運動の三法則
第一法則(慣性の法則)
質点は、力が作用しない限り、静止または等速直線運動をする。
第二法則(運動方程式)
質点の加速度$ \ \boldsymbol{a} \ $は、そのとき質点に作用する力$ \ \boldsymbol{F} \ $に比例し、質点の質量$ \ m \ $に反比例して、$ \ m\boldsymbol{a}=\boldsymbol{F} \ $が成り立つ。
第三法則(作用・反作用の法則)
二つの質点1,2の間に相互に力が働くとき、質点1から質点2に作用する力$ \ \boldsymbol{F}_{12} \ $と、質点2から質点1に作用する力$ \ \boldsymbol{F}_{21} \ $は、大きさが等しく逆向きで、$ \ \boldsymbol{F}_{12}=-\boldsymbol{F}_{21} \ $が成り立つ。
以上三つがNewtonの運動の三法則といわれるものであるが、これらをよく見てみると第一法則は必要ないのではないかと考える人もいるだろう。確かに第一法則は第二法則の力が働いていない場合、つまり$ \ \boldsymbol{F}=\boldsymbol{0} \ $の場合にあたり、第二法則に含まれるのではないかと感じる。しかし第一法則が重要なのは、以下第二法則、第三法則が成り立つような”慣性系”というものを導入することにある。慣性系とは慣性の法則が成り立つような座標系のことで、慣性の法則が成り立つような座標系において運動の法則を記述したのがNewtonの運動の三法則なのである。
これら三つの法則を力学原理として数多くの法則や定理を導出しようとするのがNewton力学である。高校で学ぶ力学分野の公式といった類のものはほぼすべてこれら三つの法則から導出可能である。次からは如何に三つの法則から数多くの法則を導くのかを考察していこう。