回折
単スリット回折
回折とは、波が物陰に回り込んで伝わる現象のことである。身近な例としては、音波は物陰によく回り込むのに対し、光は回り込まずに直進する性質がある。この違いはどこから生じるのだろうか。これはホイヘンス=フレネルの原理を用いると説明することができる。
平面波を単スリットに垂直に入射し、十分遠方で合成波を観測する場合を考える(下図)。
このとき、十分遠方における位置$ \ y \ $からの素元波は次のように表現できる。
\[ A(y)=A\sin 2\pi (ft+\frac{y\sin \theta}{\lambda})\tag{1}\]
よって、十分遠方で観測される合成波は素元波の足し合わせを考えて、
\begin{eqnarray}
B(\theta)&=&\int_0^a A(y) dy\\
&=&-\frac{A\lambda}{2\pi\sin\theta}\left[ \cos2\pi(ft+\frac{y\sin\theta}{\lambda}) \right]_0^a\\
&=&Aa\frac{\sin(\frac{\pi a}{\lambda}\sin\theta)}{\frac{\pi a}{\lambda}\sin\theta}\sin 2\pi (ft+\frac{a\sin \theta}{2\lambda})\tag{2}\\
\end{eqnarray}
となるので、単スリット回折の強度分布は
\begin{eqnarray}
I(\theta)&=&\frac{\overline{B(\theta)^2}}{\overline{B(0)^2}} \\
&=& \frac{\sin^2(\frac{\pi a}{\lambda}\sin\theta)}{(\frac{\pi a}{\lambda}\sin\theta)^2}\tag{3}\\
\end{eqnarray}
となり、以下の図のようになる。
上の図は、スリット幅$ \ 0.01mm \ $での可視光領域の強度分布である。赤色が$ \ 800nm \ $、青色が$ \ 400nm \ $である。赤色よりも青色は$ \ \sin\theta = 0 \ $付近に集中しており、波があまり回り込んでいないことがわかる。このように波長が長くなると$ \ \sin\theta=0 \ $付近以外にも大きな値を持つようになり、波がよく回り込むようになる。音が光よりも物陰に回り込むのはこのためである。
回折格子
$ \ N \ $個の点波源が間隔$ \ d \ $で並んでいる場合を考える(下図)。
一番下の点波源を基準にすると、十分遠方における下から$ \ i \ $番目の点波源からの波は位相が$ \ i\delta=i\frac{2\pi}{\lambda}d\sin\theta \ $だけ進んでいることになる。そのため、波をベクトルで表現すると以下の図のようになる。
ここで$ \ A_O \ $は一番下の点波源からの波のベクトルであり、$ \ A_S \ $ は合成波のベクトルである。したがって、この強度分布は
\begin{eqnarray}
I(\theta)&=&\frac{A_S^2}{(NA_O)^2} \\
&=& \frac{\sin^2(\frac{N\pi d}{\lambda}\sin\theta)}{N^2\sin^2(\frac{\pi d}{\lambda}\sin\theta)}\tag{4}\\
\end{eqnarray}
となり、以下の図のようになる。
上の図において、赤色は赤色の可視光、青色は青色の可視光にそのまま対応している。このように波の波長によって強度分布がずれるためスペクトルが現れる。身近な例としては、CDの読み取り面が虹色に光って見えることである。これは面の凹凸が周期的に並んでいるため、そこで反射する光がつくる強度分布が、上図のような点波源が周期的に並んでできる強度分布と同じような分布になるからである。
次に点波源をスリット幅$ \ a \ $の単スリットにする(下図)。
この場合、強度は点波源による回折格子と単スリット回折が重なるので、
\[ I(\theta) = \frac{\sin^2(\frac{\pi a}{\lambda}\sin\theta)}{(\frac{\pi a}{\lambda}\sin\theta)^2}\frac{\sin^2(\frac{N\pi d}{\lambda}\sin\theta)}{N^2\sin^2(\frac{\pi d}{\lambda}\sin\theta)} \tag{5}\]
となり、強度分布は以下のようになる($ \ \frac{d}{a}=4 \ $)。
以上の図ををまとめると以下のようになる。